あかるい生活の広場

 まさにそれによって私は苦しめられる。

 現住所と住民票のある自治体を行き来していて、いずれも辺境である。私たちのフロンティア、滅びゆく開拓の眺望。もうすぐ海が見えるなんて言うことはなく、その広野を眼前に異民族をぶち殺してオーバーキルして私たちは屍の上に文明を築くことだろう。

 そんな屍たちももう影となりさまよう。身の置き場がないとでもいうように。そりゃこっちだって身の置き場はないよ、死骸よ、地下に属するものよ。

 何で終わってるかわからないが神経が終わってる。オランザピンが処方された。鬱が悪いからだそうだし、たぶんほかのより効果が出やすいのかと勝手に憶測しているが昨今の抗うつ薬事情には疎いし、もう精神科領域の書物をなかなか読めないんだ、疲れてしまったよ。それは私の課題がそれらについての「研究」らしいからなのだが、卒論のてーまにされあははあははははは、さようなら。

 オランザピン、すごく寝るので飲みにくいんだよな。2時間くらいで寝てるとかそういうレベルでない気がする。飲み損ねたから仕方なく翌朝飲んだところ、無事昼に仮眠をとったり、酒と併用したら次の日(併用するな)(でも、併用禁忌とは書かれてなかったはずだよ……)布団から出られない具合の悪さを観測したりして、これそんなに鎮静するのですか?怖いな。そう思うと飲みにくい。翌日の活動不能、過剰な食欲、まあどちらも、服薬しなくても出ているのでいまさらといえばそうだが、これ以上の過眠と過剰な食欲に見舞われる可能性だって否定できない。

 人間の気配で死んでしまう。見知った人間、血縁のあるの。というかどんな関係であれ、程度の差はあれ腹が立つ。生活音がやかましく下品である場合に。しかも連中北関東方言で話すのだ。北関東ですよ。この未開の地!この辺境!この、文明化されない土地!よしんば文明の手が及ぼうとも、愚かしくもそれらを払いのけ、腐らせてしまう忌まわしい土地!の、方言。そもそもこの辺の方言は響きが美しくないと私に思われているし、歴史的にも野蛮なので、野蛮とされているので、間違ってもそんなものを母語として身に着けたくないのですよ。しかし私の血族は特に母はお構いなしでね、言語獲得の途上であるかもしれない人間の、またはその発話においてシビアに影響を受けうる人間の、目の前で、聞き取れる範囲で、大声でこの蛮族の言語を話しやがるのです。いいですか、この蛮族の言語を……。私は蛮族の出自を恥じて必死で、全国放送のニュースキャスターの言葉を学ぼうとしたし、ああこんなにも、文語と、比較的野蛮ではない響きの言語が、日常生活に満ち溢れているのにどうして私の一親等の女は、野蛮人の言葉で話すのか?

 それを聞かされている私、それが耳に入ることから逃れられない私は、恐怖で満たされていた。恐怖は氾濫し、横溢する。とまあ耐え難いんだよ。ところで実は私はアクセントやイントネーションが強い発話が苦手なのだ。聞きたくないという意味で。というわけだから、私はことさらに平板に、話そうと努めている。かなわない洗練に死んだ手を伸ばそうと。届かない光を仰ぎながら。別に平板さが美しいとは限らずこれは私の一方的な好みである。

 そう、言語だけではないんだ、私の抑うつは、もう絡まってしまった。私は現在地も分からない、回り続ける方位磁針で。

 なにもかもが縁遠いだろうか?いいや、過剰に生々しく見える。

※北関東が野蛮というのは個人の見解です。皆さんは皆さんの北関東像をたいせつにしてください。